第一回「企業、開発者、ユーザーの未来に喜びをもたらす” デザインエンジニアリング” とは?」では、開発者はどのように価値を創造し、ユーザーにサービスや製品という形に変えて届けるべきか、またDX 推進等の企業課題の解決手段としても「デザインエンジニアリング」の有用性と概要を説明してきました。
第二回では、なぜその方法論が望ましいのか、少し具体的にデザイナーとエンジニアの連携する流れを紹介し、その必要性への理解を深めて頂こうと思います。
【バックナンバー】Design Engineering vol.1
Design Engineering vol.1 【企業、開発者、ユーザーの未来に喜びをもたらす「デザインエンジニアリング」とは?】 はこちらからご覧いただけます。
「デザイン」と「エンジニアリング」それぞれ独立してモノづくりが完結できることも多かった時代、デザインは「アート、表層的な見栄え、 機能性、利便性、魅力」のような要素を兼ね備えることで商品としての価値が保たれ、ユーザ―にも受け入れられていました。また、エン ジニアリングは「機能、精度、運用、保守」等の品質が高ければ、デザイン性が無くてもソフトウェアやハードウェアとして高い価値を感 じることができました。
現在はIoT の浸透により、デジタルの中にデザインが生み出す機能、品質、魅力の可能性が取り込まれている時代 となり、サービスや製品を所有すること以上に、ユーザーの体験を向上させることが求められる時代となりました。
このようなデザインと エンジニアリングが交差する領域が多くなり、相互の知見や技術を用いて、問題解決を行い、サービスや製品開発を早期に検証する必要が あることに対する方法論が「デザインエンジニアリング」です。
Quality、Cost、Delivery の中で起こりうるリスク、その為の実現性の確からしさを早期に検証する環境がOSS やクラウドサーバ等を活用し、出来る時代。サービスや製品開発の中で必要な課題解決、新規性の創造に必要なプロセスを最適化する為に、組織の存在意義を再定義し、組織がもつノウハウをパッケージ化させることで、企業価値の継続性が保たれる。その計画立案としても効率的な方法の一つが「デザインエンジニアリング」でもあると考えています。
機能単位の小さなサイクルで要件→設計→実装→テストを繰り返すアジャイル開発も推奨できる方法論ではありますが、そこには「デザイン」が漏れていて「デザイナー」によるUX 要件が欠けている開発現場をよく見かけます。
また、後々立ち戻れ、拠り所となりうる、これまで脈々と受け継がれてきた「設計書」が疎かとなり、これまでの考察、検証を経て「こうなった」と振り返ることができる成果が不足している状況を目の当たりにすることも多いのではないでしょうか。
一方では、機能盛沢山で、膨大な設計図を用意していたが、ユーザーが求めていると思えない機能、あるいは、その素晴らしい技術は数年後とたんにコモディティ化にならないだろうか、という懸念を払拭しないまま開発が進むこともあると思います。
デザイナーとエンジニア双方で必要な設計指針立て、成果粒度を協議し、目的やゴールの共通認識を持ち開発を進めることが重要ですし、経営層や企画/マーケティング部門とは違い、サービスや製品の仕様を考え抜いて作り出す開発者自身が本当に必要な戦略、要件定義に関わり、精査することで計画性と実行性の精度は上がるのではないでしょうか。
サービスや製品を使うユーザーの課題を明らかにできるデザインプロセス、どうすれば技術的、組織的に実現可能なのかを検証できるエンジニアリングプロセス、この必要不可欠な2つの側面を持ちつつ、企業の抱える課題解決の方法やどうすれば経済的に持続可能な製品やサービスと成りうるか計画を立てることに目を向けることができると、「有用性」「実現可能性」「持続可能性」はより確からしさが高まることになるでしょう。
開発工程でチームや関係者、顧客とコミュニケーションを取りながら進めることは当然ですが、ここではコミュニケーションをデザインする上での手段としても考えて行きたいと思います。
デザインとはコミュニケーションの一部でもあり、人々の感性や価値観、考え方を知る為に必要な事であり、不確実な未来を予見する上でも、手懸りとなる情報、潜在的なニーズの因子のようなものをいかに探り当てるかが大切です。
デザインのプロセスには、定性的ではありますが、潜在的な課題やニーズを発掘する際に、例えばインタビュー調査や観察法、フォーカスグループのような手法があります。一方、科学や心理学を活用するような研究分野ではその手法を用いることはあっても、製品やサービス開発で活用することはエンジニアリングのプロセスにおいては多くはないでしょう。
コミュニケーションを通じて、その人、そのユーザー、その製品の「既知の未知」「未知の未知」に気付くことで漏れていた要件を認識することになります。その要件をどのように定義し、設計するべきか、共創しながら開発する上ではとても大切であると考えています。
UX とは「ユーザーの経験」であり、その経験はユーザ自身によって生まれる結果なので、開発者が作り出せるものではありませんが、その経験をより良くする為の「手段」として製品やサービスという形で作り出すことは可能です。但し「ユーザーの経験」はとても抽象的なゴールである為、いかにUX を向上させるモノコトを開発するかは、顧客、開発チーム全体の指針として定めながら進める必要があります。
「J,J,ギャレットのUX5 階層」というUX 要素の概念があり、UX 向上の為の指針となるものですが、我々はこれはデザインだけの為でなく、エンジニアリングにも適合できる役割があると考えています。
例えば、図1のようにデザインの5 階層の役割は「目的→その手段→その解決策→その策(をユーザーに体験させる)」という考察すべき段階があるというのがこの概念ですが、我々はそれぞれの段階に「実現可能性」「持続可能性」も含めて考察されないと、いかに素晴らしいコンセプトや設計、ビジュアル、UI が定義出来ても、製品やサービスに組み込むことができずに開発が進んでしまうことが発生します。
このように、現在進めているプロセスの中での段階は、何処に位置し、何を定義し、デザイナー、エンジニアが相互に何を成果とするか構造的に把握し、顧客、開発チームと認識を併せて進めることが重要だと考えています。
コロナ禍でチームワークや開発環境も大きく変わった方々も多いと思いますが、当社内でもコミュニケーションが不足気味となり、「気軽に相談できる機会が減った」「他のプロジェクトの状況が見えず、社員として不安を感じる」等の声も上がり、まだまだ工夫余地があると感じている一方、様々なオンラインツールが世の中に登場し、活用することで開発自体の進行は想定していたより効率的に進められると分かったこともありました。
特に、ワークショップのように多様なメンバーで議論を重ねながら発想、収束を行う共創活動は、以前は同じ室内、空間の中でしかできないものと思っていたことも、リアルタイムに編集しながら閲覧できるオンラインツールならではの良さもあり、「場(スペース)」の固定概念も改めることが出来ました。
以下のようなオンラインツールは既に各社でも導入されていることと思いますが、デザインエンジニアリングを実践する上では、「検討中の状況が分かる」「各担当の成果を活用・流用しやすい」「共同編集できる」コンポ―ネントやアセット利用で「データ構造とその役割が分かりやすい」等、デザイナーとエンジニアが互いに纏まった成果が出てくるのを待つのではなく、終わったタスク単位で活用できることや、手違いがあれば他の開発者でもすぐに指摘が出来たり、効率的に開発を進められることが重要です。
・コラボレーションをビジュアルで確認できるオンラインホワイトボードmiro
・デザインの成果を確認するXD、figma、sketch
・チームのタスク管理が行えるJIRA やredmine
・チームのワークスペース、コミュニケーションツールとしてconfluence、Slack
これらはシステム開発やアプリケーション開発においてデザイナとエンジニアが双方で確認し合えるスペースとしても有効です。
当社ではこれら以外にもさまざなツールやソフトウェアを探しながら、それぞれの工程に見合うものを試し、また新たな気付きを得る事もあります。(忘年会もリアルとオンラインをハイブリットに繋げて盛り上がることもあります。)
モノづくりを続けてきた日本の大企業は、国内での公共事業が激減したことで海外市場に切り替え、市場を開拓し拠点を持ち、まだまだその存在意義は高い位置をキープしています。
化学製品の世界シェアの高さ、電子部品メーカーの製品が海外研究者の中でも取り上げられたり、活用されています。サービス業においても大手スーパーやコンビニエンスストア等、国内でも元気な企業の海外進出が目立っています。
一方で、海外進出が成功しているごく一部の大企業以外の企業は、海外からは日本のデザイン力は優れているという認識は広く認知されているにも関わらず、その重要性に気付いていないのか、企業の基礎力や効率性、生産性ばかりに目を向けているようにも思えています。
もちろん重要ではあるのですが、別のスキルを持った人との共創による化学反応、作る楽しさ、そして体験するユーザーの喜びを思い浮かべながらもっと「デザイン」を活かし、企業の存在意義を高めていく活動を続けていきたいものです。
今回は「デザインエンジニアリング」の必要性と、実践する上で重要な活動指針を説明してきました。
人間中心設計やデザイン思考のように今まで通りのプロセスや概念を活用し開発を行うこともあれば、不確実な未来に向かうにあたり、新たな便利な道具や時代背景、社会環境に併せて試行錯誤することも深い気付きを得る為に必要なことではないかと考えています。
次回以降では、より具体的なデザインエンジニアリング実践方法を紹介いたします。
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Design Engineering vol.3
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